新作オペラの現場に参加して感じたこと|初演作品に関わる難しさと面白さ

どうも氷見です。

今回は、新作オペラの現場に参加して感じたことについて書いてみます。

オペラというと、《魔笛》《ラ・ボエーム》《蝶々夫人》のように、すでに長い上演の歴史があり、楽譜も演奏解釈も多く残されている作品を思い浮かべる方が多いと思います。

一方で、新作オペラの現場は少し違います。

もちろん楽譜はありますし、作曲家や演出家、指揮者の意図もあります。
しかし、過去の名演や定番の演出、長年積み重ねられてきた「こう歌われることが多い」という共通認識が、まだ十分に存在しているわけではありません。

そのため、新作オペラに関わるということは、ただ楽譜を正確に歌うだけではなく、作品の輪郭を現場で少しずつ探っていくことでもあります。

楽譜がいつ届くのか、というところから始まる

既存の名作オペラであれば、楽譜はすでに出版されていて、音源も映像も簡単に確認できます。

自分の役が決まった時点で、ある程度すぐに準備を始めることができます。

しかし、新作オペラでは、まず楽譜がいつ届くのかというところから、通常のレパートリーとは感覚が違います。

作曲や制作が同時進行で進んでいる場合、楽譜が段階的に届くこともあります。
最初に見た楽譜が、稽古の中で修正されていくこともあります。

歌手としては、もちろん早く準備したい気持ちがあります。

音を取り、言葉を読み、役の性格を考え、身体に入れていくには時間が必要です。

ただ、新作の場合は、すべてが最初から固定されているわけではありません。

その不安定さは難しさでもありますが、同時に新作ならではの面白さでもあると感じます。

稽古の中で楽譜が変わっていく

新作オペラでは、稽古の過程で楽譜に修正が加えられることがあります。

音が変わる。
リズムが変わる。
言葉との関係が調整される。
歌いやすさや舞台上の流れを踏まえて、細かい変更が入る。

既存作品では、基本的に「すでに完成された楽譜」にこちらが向かっていく感覚が強いですが、新作では、作品そのものが現場で呼吸しながら形を整えていくような感覚があります。

これは簡単なことではありません。

一度覚えたものを修正する必要がありますし、稽古の進行に合わせて柔軟に対応する必要があります。

ただ、そこには「自分たちが作品の初期段階に立ち会っている」という感覚もあります。

楽譜が絶対に動かないものとして存在しているのではなく、現場の中で作品が少しずつ実演可能な形になっていく。

そこに関わることは、新作オペラならではの経験だと思います。

「正解」がまだ決まっていない現場

既存の名作オペラには、長い上演の歴史があります。

有名な歌手の録音があり、名演とされる映像があり、指揮者や演出家の解釈も数多く残っています。

それは大きな助けになります。

一方で、時にはそれが先入観にもなります。

この役はこう歌うもの。
この場面はこう演じるもの。
このフレーズはこういうニュアンスで処理するもの。

そうした蓄積は学ぶべきものですが、同時に、そこから自由になる難しさもあります。

新作オペラでは、まだ「誰かの名演」が定着していません。

つまり、誰かの真似をすることはできません。

逆に言えば、自分で楽譜を読み、言葉を受け取り、現場で感じたものをもとに表現していく余地があります。

これはとても大きなことだと思います。

もちろん、何をしてもよいという意味ではありません。
作曲家、台本、演出、指揮者、共演者との関係の中で作る必要があります。

それでも、既存のイメージに縛られすぎず、自分が感じ取ったものを表現できるという点は、新作オペラの大きな魅力です。

真似ではなく、自分の感覚で役を作る

既存の作品を歌う時、過去の録音や映像を参考にすることは大切です。

ただ、それを聴きすぎると、無意識のうちに誰かの表現をなぞってしまうこともあります。

もちろん学ぶことは必要です。
しかし舞台に立つ以上、最後は自分の声、自分の身体、自分の言葉として出さなければなりません。

新作オペラでは、そもそも参考にできる「定番の型」が多くありません。

その分、自分で考える必要があります。

この人物は何を考えているのか。
なぜこの言葉を言うのか。
この音型はどういう感情や状況につながっているのか。
音楽と言葉と身体の関係を、どこで一致させるのか。

そうしたことを、稽古の中で探していくことになります。

誰かの真似ではなく、自分で感じ取ったものを舞台上に出す。

それを「違う」と簡単に言われるのではなく、現場の中で試しながら形にしていけるところに、新作の面白さがあります。

新作だからこそ難しいこと

もちろん、新作オペラには難しさもあります。

楽譜が変わることがある。
作品の全体像が最初からは見えにくい。
音楽と言葉の関係を自分で探る必要がある。
既存作品のように、過去の上演例を手がかりにできない。
現場で求められる柔軟性が大きい。

歌手としては、不安もあります。

早く準備したい。
なるべく確定した楽譜で練習したい。
本番までに身体に入れたい。

そう思うのは自然なことです。

しかし、新作では、そうした不安定さも含めて現場なのだと思います。

完成されたものを再現するのではなく、まだ固まりきっていないものを、関係者全員で舞台に乗せていく。

そこには、既存作品とは違う集中力が必要です。

新作オペラに関わる意味

新作オペラに関わることは、単に新しい曲を歌うということだけではありません。

まだ評価が定まっていない作品に向き合うこと。
まだ誰のものにもなっていない役を、自分の声と身体で立ち上げること。
作曲家、演出家、指揮者、共演者とともに、作品の可能性を探ること。

これは、歌手にとって貴重な経験だと思います。

既存の名作には、長い歴史があります。
その歴史の中に入っていくことは、とても大きな責任です。

一方で、新作には、これから歴史が始まる瞬間があります。

その最初の段階に関わることができるのは、新作ならではの面白さです。

作品が今後どのように育っていくのか。
再演されるのか。
別の歌手や演出によって、どのように変わっていくのか。

それは初演の段階ではまだ分かりません。

しかし、だからこそ、最初に関わる現場には独特の緊張感があります。

歌手として試されること

新作オペラでは、歌手としていろいろな力が試されます。

音を正確に取る力。
言葉を理解する力。
変更に対応する柔軟性。
演出の意図を受け取る力。
自分で役を考える力。
そして、まだ誰も正解を持っていない中で表現を選ぶ力。

これは、既存作品を歌う時とは少し違う筋肉を使う感覚があります。

名作を歌う時には、過去の蓄積とどう向き合うかが問われます。

新作を歌う時には、まだ蓄積されていないものをどう立ち上げるかが問われます。

どちらが上ということではなく、求められる力が違うのだと思います。

まとめ 作品が生まれる現場に立つということ

新作オペラの現場は、決して簡単ではありません。

楽譜がいつ届くのか。
稽古の中で楽譜に修正が加えられるのか。
作品の全体像をどうつかむのか。
役をどのように立ち上げるのか。

既存作品とは違う難しさがあります。

しかしその一方で、先入観にとらわれず、自分で感じ取ったものを表現できる面白さもあります。

まだ誰かの名演が定着していないからこそ、自分の声と身体で役を探すことができる。

誰かの真似ではなく、その現場で生まれた表現として舞台に立つことができる。

これは、新作オペラに関わる大きな意味だと思います。

オペラは、過去の名作を受け継ぐだけでなく、今の時代にも新しく作られていくものです。

その現場に立つことで、歌手としても改めて考えさせられることがありました。

完成された作品を演奏すること。
生まれたばかりの作品を形にしていくこと。

どちらも、舞台に立つうえで大切な経験なのだと思います。


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