24/02/29 すみだトリフォニーホール 小ホールにて、オペラ《長い終わり》を2公演鑑賞してきました。

氷見 健一郎公式サイトをご覧下さりありがとうございます。2月27,28日と2日公演された、高橋 宏治さんの新作オペラ《長い終わり》を鑑賞してきました。その様子などをこの記事ではまとめたいと思います。

今回紹介する公演はこちら↓

オペラ《長い終わり》

日時 2024年2/27(火)・2/28(水)両日19:00~

会場 すみだトリフォニー小ホール

【Staff & Cast】スタッフ&キャスト

【作曲・台本・芸術監督】高橋 宏治

【演出】植村 真

【指揮】浦部 雪

【私】中江 早希 (ソプラノ)

【声(ヴォイス)】薬師寺 典子(ソプラノ)

【ヴァイオリン】松岡 麻衣子
【ヴァイオリン】清水 伶香
【ヴィオラ】甲斐 史子
【チェロ】原 宗史
【打楽器】牧野 美沙
【ピアノ】弘中 佑子

​【ドラマトゥルク】田口 仁

【音響】増田 義基

【舞台監督】服部 寛隆

【録音】元木 一成

【映像記録】後藤 天

​【プロデュース】進藤 綾音

今回のホール

小ホール

今回初演が行われた墨田トリフォニーホール 小ホールは、JR錦糸町駅より徒歩5分のところにあるホールです。座席数252席、満席時の残響時間は1秒となっております。1997年開館ということで比較的新しいホールですね。

昨年11月にアルビレオ音楽展に伺ったときもこちらのホールだったのですが、ピアノの音がクリアに響く印象があります。今回聴いた弦楽の響きにも合っていたように感じました。

アルビレオ音楽展の様子はこちらの記事を御覧ください。

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作曲者紹介

PHOTO | 作曲家 高橋宏治

高橋 宏治さんは、作曲家、アートディレクター、リブレット作家として活躍しています。12歳から独学で作曲を始め、東京藝術大学音楽学部作曲科を卒業し、修士課程も修了されました。

デンマーク政府の奨学金を受けてデンマーク王立音楽院で修士課程を修了し、2010年には武生国際音楽祭で作曲賞を受賞。2018年にはコペンハーゲン・フィルハーモニー管弦楽団によって、ヴァイオリン協奏曲がデンマーク各地で6回初演され、2021年には日本初演された室内オペラ「PLAT HOME」が東京藝術大学アートフェス2023で東京藝術大学長賞を受賞されました。

《長い終わり》ストーリー

1人の少女(私)が窮屈な故郷を飛び出して、自分自身の物語を生きはじめる。「愛」を求めそれが何かを知りたいと願って。


この「愛」とはつまり音楽にほかならない。それは精彩を欠いた人生をほんの少し平凡さから救ってくれるもの、身に覚えのないままに交わされた神的な約束。だが(声)がときに彼女を唆すように、ときに彼女を惑わすように囁きかける、「あなたは愛の何を知れたのか」と。

すべてのことが分かるのはこの「物語」が終わるとき。いつか必ず「物語」は終わり、「愛」もまた終わる。一度始まった人生と音楽がいつか必ず終わらなければならないように。これは人生と愛の物語、人生と音楽の物語。(プログラム・ノートより)

今回の作品では【私】と注釈を担当する【声】の2人が登場します。オペラの曲目は以下の通りでした。

曲目一覧

◯ 私・この物の主人公。「愛」を探し、その始まりから終焉までを歌う。
● 声(voice)…(私)とは別の次元から、(私)の物語に注釈を加える存在。

1.前奏曲 ●
2.愛とは何か知りたかっただけ◯
3.レクチャーⅠ<愛とは何か>●
4.Count down Waltz <私は誰かを愛するのでしょうか>◯
5. Etude人を愛するための>●
6.間奏曲!<私たちは踊らされているだけ>
7. 出会い〇
8. 可能性の変奏曲●
9.私はあなたのフリをする◯●
10.長い終わり●
11.間奏曲Ⅱくズレてゆく、離れてゆく>
12.繰り返し●
13.ひび割れたレチタティーヴォ◯
14. こだま●
15. 私のことを忘れないで◯
16.間奏曲II <行進曲>
17.時が戻るとしても◯●
18. 終わりがあると知りながら◯
19.レクチャーII<終わりとは何か>●
20.私の話はこれで終わり◯
21. 音が消える瞬間●
22.息をするように◯

舞台について

今回の舞台では下手側に弦楽アンサンブル、ヴィブラフォン、中央後ろにピアノという配置でした。舞台セットとしては中央に机があり、机の上にはジェンガのように重ね合わされた積み木が置かれています。足元にも積み木のオブジェが組み立てられていました。

机の後ろには椅子が2つ並んで置かれ、その下手側にはランプが置かれます。対して上手側には演台が置かれ、その後ろにはスクリーンが設営されていました。

そしてオペラは開場とともに始まった。

開場すると同時にヴィブラフォンのGの音で時が刻まれます。演台の後ろのスクリーンには時計の映像が投影されています。

その状態でアナウンス、チューニングも行われ、舞台上では”声”が積み木を使いながら時を過ごしています。

「始まりは終わりの合図」。この言葉から始まる”声”のモノローグの後”私”が登場します。日記帳に文章を書き記しながら、ふと感じた疑問について思案します。

自分がなにかやりたいと言ったときにはそれをいつも駄目だとやらせてもらえない。親に愛され育てられているとは思うけれども、拒む理由が私のことを愛しているからだと言う。大人になれば愛についてわかるようになるのか?これをきっかけに愛とは何かを知りたがるようになります。

時は流れ、恋人と出会い、喜び、結婚生活を経て、彼の死に直面します。”愛を知るには人生は短すぎるのかもしれない”

 

作品を鑑賞して

作品全体を通して、歌手がでてくるところの8割はセリフによって紡がれます。セリフ一言一言のタイミングが拍に割り振られており、膨大なセリフをタイミング共に暗記しながら動きもつけて上演した今回のスタイルには脱帽しました。

セリフ部分のニュアンスとしては、ポップスにはなってしまうのですが、水曜日のカンパネラさんや、amazarashiさんというアーティストの方の《ムカデ》という曲が言葉の入れ方の感じの参考になるかと思います。

 

私と声(注釈)との関係性を見ていると、バッハの受難曲のイエスとエヴァンゲリストの関係性というよりも、ファウストとメフィストフェレスの関係性なのかなと思いました。

愛を知りたいと望む私に、声は愛とは何か?を。終わりとは何かを知りたい私に対して、声は終わりについてのレクチャーを始めます。

しかしながらそのレクチャーが不思議で、いろんな例、御託を並べるも肝心な部分ははぐらかす感じが悪魔っぽいなと感じました。

曲では、愛に触れたシーンでは《愛の喜び》を、終わりを感じれば《蛍の光》、このようにありますようにと願うシーンではアーメン終止を取り入れるといった遊び心も。

舞台では照明に工夫がされており、なかなか斬新だったのですが、光を当てる範囲を狭めたり、逆光の光を当てるといった効果で、演者の顔をあえて隠すような向きで設置されていました。

本当に見たいもの、知りたいものが見られていないということから、目隠しの暗示なのかなと僕は考察してみました。

一曲レチタティーヴォと2曲”私”のアリアがあり、セリフで紡ぐのも良いのですが、歌声の説得力はやはり違うなと聴き入ってしまいました。全体を通してのセリフと歌唱のバランスも良く考えられているんだなととても参考になりました。

 

2日間聴き比べてみて

2日間鑑賞して一番大きく変わったところは、二日目にはエンドロールが追加されたことです。”私”の「さようなら」のあと完全に暗転し、椅子の傍にあったランプが灯り、スクリーンにエンドロールが流れます。このランプが消えてから次は「終わりは始まりの合図」として愛とは何かを巡る時が繰り返されていくというのかなと思いました。

永遠に終わることのない時の流れすべてが”長い終わり”なんだよということでこの《長い終わり》というタイトルなのかなと自分の中で考えましたが、正解はわかりません。

初日は全体的に音量のレンジが幅広く、テキストへの思いの強さにとても惹きつけられました。また、照明の光量が強く、とてもきらびやかな舞台になっていたと思います。オペラ終盤の最後に”声が”「この音を聴いてほしい」と言って鳴らされたおりんの音に魂を感じましたね。現代オペラの魅力に触れる演奏だったと思います。

2日目はオーケストラのニュアンスが劇的に変わったように思います。音楽の構造がとても鮮明になり、オケと声、特にセリフ部分がとてもクリアに聴こえるようになり、緻密に作られたテキストを堪能することができました。また、舞台上の照明が少し印象が変わり、明暗のコントラストがとても良くなり、こういう演技が入っていたのかと、隅々まで歌手の表現が堪能できたのはとても良かったです。

現代作品は一回やっておしまい!となってしまう印象がありましたが、2回鑑賞できる機会があるのは大変ありがたいです。一度きりでは把握できなかったことも、次はここに注目して聴いてみよう、座席の場所を変えて見てみようなど、視点がかえられる楽しみがありますね。

演奏会はCDではないので、その日毎で同じ演目でも違う印象に感じたりと、演奏会の魅力を再認識させていただきました。

 

考察が合っていたのか聞いてみた。

長々と感想を書き記させていただきましたが、実際のところどうだったのか無粋ながら聞いてみました。

設定としてはこういうことなんだよと、丁寧にドラマトゥルクの田口さんに教えていただけたのですが、あえてここでは書かないことにしておきます。というのも、合っていようがなかろうが、これはこういうことかな?と考えながら観るのがとても楽しかったからですw

とのことで、映像版が近日公開されるそうです。皆さんにもぜひ、いろんな考察をしながら楽しんでいただきたいです。

ちなみに僕のお気に入り楽曲は18曲目の《終わりがあると知りながら》です。

公開されましたらこちらのブログでもご案内させていただきます。長文お読みくださりありがとうございます!

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