24/01/26 オーケストラの見方が変わる!?仙台フィル50年の物語 音楽之友社出版、《杜のオーケストラ》をご紹介します。

氷見 健一郎公式サイトをご覧下さりありがとうございます。

書店で平積みで紹介されていた、こちらの《杜のオーケストラ》という本が気になったので購入してみました。

東北の有名なプロオーケストラの一つとして知られる、仙台フィルハーモニー管弦楽団さんがどのような歩みを経て今があるのか。360回を超える定期公演を行う仙台フィルハーモニー管弦楽団さんの歴史に触れてみたいと思います。

今回紹介する本はこちらです。

杜のオーケストラ 仙台フィル50年の物語

杜のオーケストラ 仙台フィル50年の物語

須永誠 著

定価 2,420円 (本体2,200円+税)

判型・頁数 A5・296頁

発行年月 2023年11月

ISBNコード 9784276200227

商品コード 200220

2023年11月13日頃から、書店、楽器店、他ネットショップ等にてご購入いただけます。 

 オーケストラの結成まで

「仙台にオーケストラがないのはおかしい」そんな思いをぶつけ合う作曲家の片岡 良和さんをはじめとした4人の話から始まります。

それまで全くオーケストラがなかったわけではなく、最初の仙台のオーケストラは大正時代半ばごろに結成されていたようです。しかしながら、団体を継続することの難しさもあり、結成しては解散し、なんとか残ってもとても小規模な団体しかなかったという実情があったようです。

当時存在していた団体の演奏家たちに声をかけ、同士を集め、仙台フィルハーモニー管弦楽団の前身となる【宮城フィルハーモニー管弦楽団】を結成します。とにかく継続させたいという思いから、プロ団体を目指すということは強く言わずに、手探りでの活動がはじまります。

演奏へのアプローチ

思うように練習会場の確保ができず難航。無料で使えていたところも使い勝手が合わなくなり、施設を有料で借りることになり財政の面でも課題が山積みになっていきます。

そんな中で市民演奏会の出演の機会を得たのを皮切りに、様々な演奏会に出演していきます。その活動の成果が実り、宮城フィルハーモニー管弦楽団の第一回定期演奏会が実現します。

最初の演奏会は特にお客様の印象に残るものにしたいという思いから、ベートーヴェンの交響曲第5番《運命》がプログラムに選ばれました。終演後、惜しみない拍手が送られたと記載がありました。

その後移動音楽教室という事業を始めることになります。編曲にものすごい労力がかかったそうですが、オーケストラの楽器で演奏される校歌が特に好評だったそうです。

真のプロに向けて

それまでは片岡 良和さんが常任指揮者を務めていましたが、専門は作曲で、さらなる向上のためには指揮者を迎えたほうが良いという発案から、福村 芳一さんが常任指揮者に就任します。

本によると、福村さんの指導はとても的確で厳しいものだったそうで、この頃プロとアマチュアが混在した状態だった宮城フィルハーモニー管弦楽団でしたが、アマチュアの方の一部が指導についていくことができず退団していったようです。その指導があって団員のプロ意識が高まり、演奏に対する姿勢が変わったと書かれていました。

初めての定期演奏会は第13回で、ベートーヴェンの交響曲第2,第3番を演奏しました。鳴り止まない拍手にベートーヴェンの交響曲第2番のラルゲットを再度演奏し、拍手に応えたそうです。

選曲もオーケストラに欠かせない曲を巧みに組み込み、第一線で活躍するソリストを招き、協奏曲を定期演奏会に取り入れたのも福村さんからだそうです。その最初のソリストに迎えられたのがチェリストの鈴木 秀美さんということで、読んでいたときにおおおお!と声を出してしまいましたw

真のローカリティーこそ世界に通用する

芥川也寸志 - Wikipedia

1983年には音楽総監督に芥川 也寸志さんが音楽総監督に。当時の宮城フィルハーモニー管弦楽団員の平均年齢は30歳に満たない若手が多かったのだそうです。そんな団員のみなさんと芥川さんは対話することを大切にし、団員はこれからの未来に希望を膨らませていたそうです。

ー 宮城・仙台にしっかりと根をおろし、地元ならではの音楽を奏でることでオーケストラの活動は普遍性を持つ ー

この芥川さんの言葉は宮城フィルのこれからの目指す目標になったそうです。

芥川さんの監督時代の部分には名言ともとれる言葉が多く散りばめられており、その中で気に入ったのが当時の活動の主軸にあった子どものための演奏会の話です。

演奏中に静かにできない子どもに対し、芥川さんは「こんな少しの時間も静かにできないのか?」と怒ったのだそうです。

でもその後に丁寧に「演奏家は機械じゃないんだ。オーケストラのメンバー同士が音を聞き合わないとハーモニーができないんだ」と説明されたのだそうです。ちゃんとした音楽を届けるために子ども相手だろうと妥協することはなかったと振り返るヴァイオリニストのコメントが添えられていました。

仙台フィルハーモニー管弦楽団の誕生

仙台フィルハーモニー管弦楽団 / Sendai Philharmonic Orchestra

仙台市は市制100周年を迎えた1989年に東北初の政令指定都市となりました。このタイミングに合わせて宮城フィルハーモニー管弦楽団から仙台フィルハーモニー管弦楽団へ名称を改名。外山 雄三さん、円光寺 雅彦さん、籾山 和明さんでの新体制となります。

東京公演や札幌交響楽団さんとのジョイントコンサート、オペラ公演にも力を入れて技術を高めていきました。

拠点施設の仙台市青年文化センターも誕生し、収容人数802人のコンサートホールの優れた音響に驚きの声があがったそうです。この会場は仙台国際コンクールの会場にもなり、地下鉄で一本で行ける好立地も相まってとても親しまれているようです。

この頃仙台ジュニアオーケストラも設立し、仙台フィルの団員を講師に迎え、演奏技術やオーケストラとしての音楽の作り方をプロから学べる素晴らしい制度も生まれました。

国際コンクールのホストオーケストラとしての活動や、海外公演ツアーなどを通じて仙台フィルハーモニーの発展は止まりません。

初の外国人常任指揮者の登場

これまでも共演したことのあったパスカル・ヴェロさんが2006年から常任指揮者に。フランス音楽に力を入れ、仙台フィルとの相性もよく新風を吹き込みます。

そして東日本大震災が起きます。この時の東北の被害の様子や、楽団員さんたちの葛藤の部分はこの本の中で一番食い入るように読んだ箇所かもしれません。

オーケストラ同士の助け合いや、いままで共演した演奏家が声を掛け合って前に進んでいく様子に、こうやって乗り越えてきたのかと人の優しさのありがたさ、素晴らしさを感じずにはいられませんでした。

パスカル・ヴェロさんは、外国人演奏家が日本を敬遠するなか、僕は気にしないと来日してくださったり、のちのコロナ禍でも日本にいらっしゃり、演奏会で指揮を振ってくださったようです。

仙台フィルとの良好な関係とパスカル・ヴェロさんに対する愛をこの本から感じました。そんなパスカル・ヴェロさんは仙台フィルハーモニー管弦楽団の桂冠指揮者となります。

50周年を迎える

2023年仙台フィルハーモニー管弦楽団さんは50周年を迎えました。2023年6月16,17日に行われました、第364回の定期演奏会では中江 早希が出演し、常任指揮者である高関 健さんとマーラーの交響曲第4番を演奏しました。

こちらの演奏会は僕も聴きに駆けつけまして、仙台フィルハーモニー管弦楽団さんの拠点である日立システムズホール仙台(仙台市青年文化センター)での演奏ということで、素晴らしい音響空間で天上の音楽を堪能しました。

こちらの演奏会の記録も本に収録してあり、巻末の定期演奏会記録のP34-35に記載されております。

23/06/18 第364回仙台フィルハーモニー管弦楽団定期演奏会に行ってきました。

皆様、今日も氷見 健一郎公式サイトをご覧下さりありがとうございます。 昨日思い切って宮城県は仙台市へ行って参りました。この日ライブイベントでもあったのか応援グッ…

鑑賞記はこちらを御覧ください。

最後に

書かれていた歴史の部分を僕の感想など踏まえながらまとめてみました。

どんな大きな組織もはじめからその状態であったわけでなく、少しずつ努力によって大きな組織になっていく。仙台フィルハーモニー管弦楽団さんの歴史にふれて、地元に根付くオーケストラの大切さ、オーケストラの団員さんの人柄の良さ、演奏会を聴きに行った時のお客様の温かい拍手の理由など、この本を読んだからこそ納得できる節も多々ありました。

巻末にはオーケストラの歴史年表と定期演奏会の一覧が掲載されています。本編を読んだあとに改めて眺めると定期公演の見え方が変わってきます。オーケストラのプログラムを考えるのってなんだか楽しそうですね。シーズンの記者会見にも今後注目してしまいそうです。

本の本編にはまだまだご紹介できていない興味深い内容がたくさん書かれています。本には当時の団員がどういうことを思い、考えて演奏に取り組んでいたかというインタビューを含め、なかなか密度の濃い内容になっています。ぜひお手に取って楽しんでいただけますと幸いです。

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